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オープントラカレ講座

 

物理学からアートまで、幅広い分野で活躍されているヒッポファミリークラブの研究協力者による「オープントラカレ講座」を開催しています。社会言語学、脳科学、生物学、物理学、情報学、音楽など、分野を超えて「ことばと人間」について参加者と一緒に考えます。
 2007年からは、春休み・夏休みの企画として小学校5年生から参加できる会を開催しました。
 2021年春には、2021年10月に迎えるヒッポファミリークラブの多言語活動40周年を記念して、誰でも参加できるオンラインでのオープントラカレ講座を、10講座連続で開催しました。10講座合計で、未就学児からシニア世代まであらゆる世代の、延べ5,400名を超える皆さんが参加し、ライブ感あふれる講座で、参加者の皆さんと一緒に「ことばと人間を自然科学する」を考える機会となりました。幅広く様々な分野の話題を取り上げた10講座を通して、「ことばと人間を自然科学する」という大きなテーマのもと、あらゆる分野の壁がなくなり、ごちゃまぜに溶け合い融合していくような感覚を感じました。

2021年
オープントラカレ講座

2021年3月20日(土祝)10:00~12:00
中村桂子さん(生命誌/JT生命誌研究館名誉館長)
「他人事はどこにもない―いのちのつながりで考える」

 中村桂子さんは、38億年の生命の歴史を一つのつながりとして捉えなおす「生命誌」という新しい科学を創出し、「生きもの」の研究に取り組まれています。毎年のオープントラカレ講座でお話をしてくださっており、いつも私たちをやさしい気持ちにさせてくれます。30年以上にわたって研究協力者として応援してくださっています。
 講座では、「他人事はどこにもない」というテーマで、「私」ではなく「私たち」という視点で世界を見つめようというメッセージを話してくださいました。地球上には様々な生き物が生きていて、それらは全て38億年前に一つの細胞から生まれてきた仲間であり、人間が他の生き物の上にいるのではなく、同じ位置で生きている仲間である。だから、地球にやさしくてあげよう、という「上から目線」ではなく、同じ仲間として地球に存在している、という「中から目線」を持つことが大事である、と話してくださいました。普段私たちは、他の生き物と一緒に生きているとあまり自覚していないけれど、実は人間の体の中には人間のDNAよりもずっと多くの数のバクテリアが住んでいます。単純な構造のバクテリアと、とても複雑な構造の人間ですが、お互いの存在がないと生きていけないのです。また、人類の祖先は、アフリカのジャングルから食べ物を求め外に飛び出し二足歩行を始めたことによって、ことばを話したり想像したりする力を持つことができました。そして、世界中へ広がっていき今の私たちに繋がっているのです。そんな「私たち」という命のつながりの中で物事を考えると、もっと世界が広がるし、周りの人や生き物に対して優しくなれるのではないかな、という温かいメッセージがこもった講義でした。

  • 主な著書:『中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌』(全8巻)藤原書店
2021年3月20日(土祝)14:00~16:00
坂田明さん(ジャズサックス奏者、ミジンコ研究家/東京薬科大学生命科学部客員教授、広島大学大学院生物圏科学研究科客員教授、(一財)言語交流研究所理事)
「わたしと音楽とミジンコの日々」

 坂田明さんは、35年ほど前の、多言語活動提唱者榊原陽とのラジオでの対談をきっかけに、ヒッポファミリークラブのメンバーになりました。研究協力者として、また、(一財)言語交流研究所理事として、長年ヒッポファミリークラブの活動を応援してくださっています。オープントラカレ講座ではいつも人間味あふれる楽しいお話に加え、サックス演奏、ミジンコ観察など盛りだくさんです。
 講座は、坂田さんの母校である広島大学生物生産学部附属練習船「豊潮丸」のプロモーションビデオの上映で始まりました。動画に流れる「豊潮丸」のテーマ曲を作曲したのが坂田さんです。大学入学時に目指していた海員免許取得コースはその年から廃止され、挫折を味わい、毎日サックスを吹いてばかりいた頃、ジョン・コルトレーンの広島でのコンサートを聴いて心が震えたそうです。サックスでこんなに人を感動させることができるのなら自分もこんな人生を目指したいと思い、プランクトンの勉強をしながら、ジャズの和声法と編曲法を通信教育で勉強し始めました。顕微鏡でミジンコを初めて見た瞬間、透けて見える生きた命に感動し、音楽に感動する人間も生きた命なのだと、音楽とミジンコが自分の中で繋がったそうです。「音楽に国境はない」と言われる一方、音楽には食べ物と同じように好き嫌いがあり、実際の音楽の世界は国境だらけで、人種や肌の色の違いなどによる問題も消えません。そこで人間として問われているのは、人間としての質であり、サックスはどんなにうまくても人の心を揺らせないならただのテクニックであると同様に、ことばも大事なのは話す内容の質だ、と熱いメッセージを送ってくださいました。講座の最後は、映画「ひまわり」のテーマ曲の生演奏に、参加者の心が揺さぶられました。

2021年3月21日(日)10:00~12:00
塚原祐輔さん(ボールウェーブ株式会社取締役、(一財)言語交流研究所評議員)
「混沌と暗号」

 塚原祐輔さんは、トラカレ発足当初から音声解析の研究サポートなどに関わってくださり、現在は(一財)言語交流研究所評議員として応援してくださっています。凸版印刷の研究所、DNA解析によるオーダーメイド医療の事業などを経て、現在は天然ガスなどにごく微量含まれる水分子を定量的に測定する機器の開発に取り組んでいます。物理学、数学に精通した切れ味の鋭い語り口が特徴です。
 講座では、ご自身の最近興味のあるテーマとして、「混沌と暗号」について話してくださいました。「幸せ」、「無限」、「極限」、「混沌」など、抽象的な概念が、最初どうやってことばにできたのだろう、という問いから講座が始まりました。日本では古事記の冒頭の国生みの物語として、「混沌」とした地上をかき混ぜてその滴り落ちたものが島となり始まり、古代ギリシャ神話でも同様に、世界が始まる時あらゆるものが登場するための必要な場として、最初に何もない場として「カオス」が存在したそうです。カオスは、一見ぐちゃぐちゃに見えても、そこに至るまでに決まった手続き(ある種の暗号)が施され、乱雑な部屋でも本人がどこに何を置いたのか時系列で整理されているとそれはカオス的な部屋といえるそうです。18世紀中頃から長年難問とされてきた三体問題について、最終的にポアンカレが「解けない」ことを証明し、その過程でわからないものに対しての新しい切り口を示すことで、カオス理論として新しい世界を開いていくことになりました。まだ学問としては数十年しか経っていない新しい概念としてのカオス理論ですが、概念が生まれると周囲のカオス的なものが見えてきて、どちらかというとカオスが普通かもしれないといえる世の中になったのかもしれません。一方で、「学校では解ける問題を一生懸命教え、うかうかしていると子どもたちは世の中には全てに答えがあると思い込んでしまうでしょう。世の中は解けないものであふれています。」という塚原さんの最後のことばに、いつの間にか正解を求めている自分たち大人もはっとさせられました。

2021年3月21日(日)14:00~16:00
岩田誠さん(神経内科学/東京女子医科大学名誉教授、(一財)言語交流研究所理事)
「声が言葉になるまで」

 岩田誠さんは、10年ほど前からヒッポファミリークラブの活動に関わってくださるようになり、現在は(一財)言語交流研究所理事として応援してくださっています。脳に障害を負った患者のリハビリなどを行う神経内科医であり脳科学の第一人者。歴史、絵画、音楽などにも造詣が深く、ヒッポファミリークラブのべべ(赤ちゃん)フィールドにも多大な関心を寄せてくださっています。
 講座では、最初に、声を出すということは、異性を呼ぶためのメーティング・コール(Mating call)をする両生類と、子どもが声をだして、親を呼ぶためのセパレーション・コール(Separation call)をする鳥類や哺乳類に分類され、そして恐竜も鳥類や哺乳類に近かったとお話してくださいました。そして、チンパンジーと人間の声帯の違いから、チンパンジーの声帯は高いところにあるため、むせないが声は鼻に抜けてしまい響かない一方、人間の声帯は低いところにあるため、声が響きやすいが同時にむせやすいのだそうです。チンパンジーは言葉を持たなくとも、生命の安全を選んだのに対し、人間は命がけで声を出すことで、生活のために言葉を手に入れたことは奇跡だといえます。旧人であるネアンデルタール人との比較からは、人間の脳の重さはほとんど変わらないが、何十万年も道具の進歩がないのは言葉がなかったからだそうです。人間には言葉があり、赤ちゃんは生まれる前から母の声を認識し、生まれてから母の発する言葉を模倣する。それが言語機能の本質であり、そこから始まる相互コミュニケーションを軸に自己の存在理由を確認し、他者の存在を理由づけることになる。言葉があるからこそ、私たちは今、言葉により過去を記述し、未来を想像し、創造することができると強く語ってくださいました。ヒッポファミリークラブの活動の真ん中に赤ちゃんがいることは、私たちが人間であること、そして自然であることを改めて再確認できる機会となりました。

  • 主な著書:『ホモ ピクトル ムジカーリス―アートの進化史』中山書店、2017年
2021年4月17日(土)10:00~12:00
坂東昌子さん(理論物理学/愛知大学名誉教授、京都大学基礎物理研究所研究協力員)
「物理屋と生き物」

 坂東昌子さんは、京都大学湯川秀樹研究室のご出身で、女性としては二人目となる日本物理学会会長などを歴任されました。10年ほど前にヒッポファミリークラブの研究協力者になり、現在は(一財)言語交流研究所理事として関わってくださっています。ヒッポファミリークラブのアマチュア精神を高く評価してくださっており、ご自身も一般市民と科学者をつなぐNPO法人「知的人材ネットワークあいんしゅたいん」を主宰されています。
 講座では、幼少の頃から自然と周りの事象に「なんで?」と興味がわき、知りたい気持ちから考え、その好奇心をずっと大切にされて、今もなお、さまざまな研究活動に取り組んでいるご自身の体験をお話しくださいました。生物学の分野での大腸菌、ミジンコの性別と進化について、また、放射線の生物への影響など、やはり関わるからには自分事としてとらえる、という視点をとても大切にされ、市民と科学者の共同研究も進めておられます。特に放射線は、良いことにも悪いことにも使えるからこそ、もっと科学で調べなくては、と考え、市民との意見交換を重ね、放射線を浴びたり食べたりしたとき、またガン治療により傷ついた細胞も決して体内にたまりっぱなしではなく、きちんと排泄される仕組みであることなども見つけてこられました。「Science for all(みんなのための科学)」ではなく、「Science of all(みんなでやる科学)」、と話された言葉に、言葉をみんなで見つけていく私たちのヒッポファミリークラブの活動との共通点が見えました。親しみやすく、子どもたちの「なんで?」にも好奇心をもち、目を輝かせながら答えてくれる姿がとても印象的でした。

2021年4月17日(土)14:00~16:00
木村護郎クリストフさん(社会言語学/上智大学外国語学部ドイツ語学科教授)
「「グローバル化」とどう向き合うのか~「英語さえできれば大丈夫」の落とし穴~」

 木村護郎クリストフさんは、ドイツ人のお母さん、日本人のお父さんのご家庭で育ち、ドイツ語、英語、日本語のほか、少数民族のことばも話される多言語人間です。「世界は多言語、上智も多言語」のキャッチフレーズで上智大学、慶応義塾大学で「多言語コミュニケーション」の授業などをされており、2019年には慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)、上智大学にてヒッポファミリークラブとのコラボの授業が実現しました。節度を持って英語を使う「節英」を提唱し、脱英語依存の教育に取り組んでいます。
 講座では、「社会の中の言語」、環境問題の一部としての言語という視点から、日本社会の言語差別、現地語を学ぶ意味ということを中心にお話されました。以前、ドイツ東部の、ある村でだけ話されているソルブ語習得のために滞在した際、村人はドイツ語も普通に話しますが、木村さんがソルブ語を理解できるようになって初めて、ドイツ語だけでは知りえなかった村の情報や、村人の価値観もわかってきたそうです。言語によって視点が変わり、別の世界が見えてくる、言語がもたらす世界観や価値にまで関わる現象といえるでしょう。それはドイツの小さな村で起こっているだけではありません。日本社会には、英語に対する過大評価や英語以外の言語に対する過少評価、英語を手放しにありがたがる価値観がいまだにあるかもしれません。英語を通して記述される世界は英米の世界観や常識が根底にあり、それは世界の一部でしかないこと、世界にはたくさんの言語があるということを知り、相手の言語を学ぶという発想を持つことで、初めて世界に開かれる心を得られるのです。講座に参加した小学生からの「ことばが一つになればみんな通じるのではないか」という質問に、「ことばが一つになったら、通じなかった原因がそこではなかったとわかるでしょう。相手に関心を持っていないことのほうが大きく、言語の違いが問題ではないのです。自分とは違う考え方をする相手がいることを想像できることが大事です。」とおっしゃったことばが印象的でした。

  • 主な著書:『節英のすすめ:脱英語依存こそ国際化・グローバル化対応のカギ!』萬書房、2016年
2021年4月29日(木祝)10:00~12:00
鈴木淳さん(理論物理学、情報学基礎論/電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授)
「量子と情報:量子の世界でのコミュニケーション」

 鈴木淳さんは、ヒッポファミリークラブの多言語環境で育った研究者です。高校生の時に聞いた、ヒッポファミリークラブの研究協力者のお一人である山崎和夫先生の講義で量子力学に興味を持ち、現在は量子力学を応用した量子情報理論の研究などに取り組まれています。
 講座は、「情報とは何か?情報の質と量とは?」という問いから始まりました。現代では情報を記号化することで情報を定量化し、メールのやり取りなどのデジタル通信もできるようになっています。しかし、情報通信には速度に限界があります。信号を送ったとしても正しく伝わらない場合があるので、どれくらいの情報量を正しく送受信できるか、すなわち相関(つながり)の強さが情報通信速度のキーになります。そこで量子通信が次世代の新しい通信方式として期待されています。送りたい情報を量子状態に変換し、情報の送受信を行う技術のことです。量子状態に変換することで、現在の通信速度を超える通信が可能になり、絶対に破られない暗号として送受信することができるようになるのです。ただし、発展途上の技術であり日常生活に登場するにはまだまだ時間がかかりそうです。最後に、量子相関(量子もつれ、量子エンタングルメント)の不思議な世界を簡単な例えを用いて紹介してくださいました。量子が箱に入っている時、別々の人がそれぞれの箱の左右どちらかの扉を開いた場合、相関がないはずなのに、同じ方向の扉を開いた時は量子が同じ状態になっているのです。この現象は距離がいくら離れていても同じ結果になります。このように難しくて摩訶不思議な量子の世界を親しみやすい例えで話してくださり、分からないけれど楽しいという感覚を感じた講座でした。

2021年4月29日(木祝)14:00~16:00
竹内昌治さん(バイオハイブリッドシステム/東京大学大学院情報理工学系研究科教授)
「食肉3.0 ~培養肉のすすめ~」

 竹内昌治さんは、ヒッポファミリークラブの多言語環境で育ち、中学生時代にアメリカ青少年交流にも参加しました。工学の技術を活かした細胞や細胞膜の人工構築、培養肉の構築など、新しい研究、産業の創出に取り組まれています。特に再生医療の分野で期待される若手研究者としてメディアにも頻繁に取り上げられています。機械、電気、情報、生物、化学、材料など様々な分野をバックグラウンドとする研究者が集まった、ヒッポファミリークラブの活動にも通じる多様でユニークな研究室を主宰されており、そのテーマは「いろいろな分野をゴチャ混ぜにして、新しいものを創る!Think Hybrid!」
 講座は、テレビ番組で取り上げられた培養肉の取材動画から始まりました。培養肉とは、牛から0.01mmほどの筋細胞を採取して、培養液の中で細胞を増殖して作られた肉で、将来的には脂肪や血管などを入れて牛肉の味や食感に近づけるそうです。では、なぜ培養肉の開発を進めているのでしょうか。人類は、古くから肉食のために狩猟生活をし、その後、畜産文化を始めましたが、人口が増え、食糧難・環境問題・安全性・動物福祉などの観点から、将来的に安定的な食肉の供給は難しいと考えられるようになってきています。中でも、畜産により放出される大量の温室効果ガスの影響は深刻で、家畜に頼らない代替肉の開発が注目を浴びるようになりました。そんな中、植物由来の肉(プラントベース・バーガーなど)は既に商業化されていますが、次の段階として、本来の肉から培養した、リアルな食感と栄養分を持つ培養ステーキ肉を目指して開発を進めているそうです。将来的には未来肉として、例えば、無菌で生食可、地産地消、常温保存でエコな生産、など、誰もが豊かに健康に暮らせる、地球環境に優しい社会を目指していきたい、さらには、生物と機械が融合したバイオハイブリッドロボットの可能性を探っていきたい、と語ってくださいました。

2021年5月8日(土)10:00~12:00
古澤力さん(生物物理学/理化学研究所、東京大学理学系研究科教授)
「生物らしさの理解へ向けて ~ゆらぎと進化について~」

 古澤力さんは、ヒッポファミリークラブの多言語環境で育った研究者です。2011年に文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞されるなど、生物システムの研究で注目を集めています。「生物システム」は、様々な環境変化や内部状態の揺らぎの下で機能し続けられる「頑強性」と、環境変化などに対して柔軟に内部状態を変化させる「可塑性」の両面を持っており、現在はそのシステム解明に向けて理論と実験の両面から迫る研究に取り組まれています。
 講座は、「生命とは何か?」という参加者への問いかけから始まりました。参加者からの声をその場で取り上げてくださり、様々な事例を考え、生命と非生命の境界があいまいとなる中、一つの定義として、ダーウィン進化をすることができること、つまり、1. だいたい同じ状態をもつ子孫が生まれること(遺伝)、2. 変化した状態を持つ子孫が生じること(変異)、3. 状態に応じて子孫を残す数が変わること(選択)、の3つの条件を満たすこと、と示してくださいました。これらの条件を満たすコンピュータ・シミュレーションから、大きな「ゆらぎ」を持つ要素は進化のスピードが速いこと、また、もともと「ふらふら」していること(ゆらぎを持つこと)が安定的に進化するために必要なことがわかるそうです。現代において、人間は著しく進化せざるを得ない状況ではないものの、様々な環境の変化の中、いずれ大きなゆらぎを活かさないといけない時がくるかもしれないし、今自分たちの生きているという状態がゆらぎに支えられているのかもしれません。生きているということはどういうことなのか、その問いは難しく答えは一つではなく、考えることが大事なんですよ、ということばが印象的な講座でした。

2021年5月8日(土)14:00~16:00
長江敏男さん(Pharma Business Consultant、岐阜薬科大学客員教授、(一財)言語交流研究所評議員)
「COVID-19に伴う最近の「グローバル・コミュニケーション」課題と解決代替案~大変だけど楽しい、新たな気づき発見、学ぶ仕事生活人生視点から~」

 長江敏男さんは、2019年から(一財)言語交流研究所評議員として関わってくださっています。日英米仏系製薬会社などで活動した後、ペプチドリーム社外取締役、製薬企業のグローバル展開コンサルタントや国内外学会等で講演など広く活躍されています。「日本発の創薬を!」がご自身のテーマとのこと。オープントラカレ講座には初登場、軽快な語り口で楽しいお話をしてくださいます。自称、「足軽でフットワークが軽い変人」、ということです。
 講座の冒頭に、これまでヒッポファミリークラブの活動に関わってきた印象として、HIPPOに、H: HERO、I: International Interaction、P: Person-to-person Interaction、P: Purpose、O: Opportunities、を掛け合わせ、また、2019年のLMP(LEX Multilingual Presentation)の際に若者の多言語プレゼンテーションと会場の熱気に感動されたことをお話してくださいました。ご実家は窯元で、幼少の頃えんとつの穴の中はどうなっているのか探究されたというエピソードから、長江さんの原点ともいうべき好奇心、そして海外とのやりとりの中であくなき問題に立ち向かう姿の原点を垣間見ることができました。また、ご家族の死を経験し、窯元育ちの釉薬から薬学に切り替えたエピソードもまさに運命のように感じました。最後に、社会・組織と個人のウィンウィンの条件として、1. Needs(時代環境により変化する社会・組織のニーズ)、2. Desire(ライフステージにより変化する私のやりたいこと)、3. Competencies(評価される実行能力)、の3つが重なる部分が大切、とお話しくださいました。「困っている多くの患者さんに喜んでもらえる薬を」、ということばは、これら3つの重なる部分をきちんと実行しておられ、とても印象的でした。