ヒッポファミリークラブが東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授とマサチューセッツ工科大学のスザンヌ・フリン教授との共同で進めていた新たな研究論文がNature誌の姉妹誌にあたるイギリスの科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。論文はこちら
多言語の脳科学的研究の成果が
新しく
Scientific Reports誌に
発表されました
発表概要
東京大学大学院総合文化研究科教授の酒井 邦嘉 氏と同大学院生の梅島 奎立 氏は、一般財団法人 言語交流研究所(本部:東京都渋谷区、代表理事:鈴木 堅史)との共同研究において、多言語話者の方が言語野はもちろん、大脳基底核・視床や視覚野までも有効に活用できているということを初めて明らかにしました。
本研究グループは、日本語を母語とする参加者に対してカザフ語を新たに習得させ、MRI装置と文法課題を用いて言語習得のプロセスを調べました。その結果、左脳の言語領野の活動が、多言語群で二言語群よりも定量的に高くなりました。
これらの結果は、複数の言語の習得効果が累積することで、より深い獲得を可能にするという仮説「言語獲得の累積増進モデル」を支持します。
この仮説は、共著者の一人であるスザンヌ・フリン(米国マサチューセッツ工科大学 教授)がこれまで提唱してきたものです。
日本の外国語教育で英語ばかりが取り上げられがちな中、多言語の音声に触れながら自然に習得することの重要性が科学的に明らかとなりました。
この自然習得法は、今年で 40 周年を迎える言語交流研究所・ヒッポファミリークラブが多言語活動を通して実践してきたものであり、今回初めて脳科学による裏付けが得られたことになります。
※以降、発表内容等の詳細につきましては、「東京大学・言語交流研究所プレスリリース」をご参照ください。
多言語話者になるための脳科学的条件
-新たな言語の文法習得を司る脳部位を特定-
- 英語やスペイン語等の習得経験のある日本語母語話者が、新たにカザフ語の文に音声で触れた時、その文法習得を司る脳部位を特定しました。
- この新たな言語習得を司る脳部位は、これまで母語や第2言語の文法処理に関わる「文法中枢」として研究チームが特定してきた「左下前頭回の背側部」と完全に一致しました。
- 多言語の習得効果が累積することで、より深い獲得を可能にするという仮説「言語獲得の累積増進モデル」が、脳科学によって明確に裏付けられました。
日本では初等教育から英語が教科になっていますが、日本人の英語力は毎年常に下降を続けています。
その原因として、個々の単語の記憶や文法の学習に頼るような従来型の勉強法や、SNSなどで大量の文字情報に晒されて音声に触れる機会が乏しいことが考えられます。多言語の音声に触れることで、日本人でも新たな言語を柔軟に習得できる、という本研究の成果は、多言語を同時に習得することの相乗効果を明確に示唆しています。これは、言語の「自然習得」という考え方に合致しており、語学教育全般に一石を投じるものです。
記者会見の内容
一般財団法人言語交流研究所 代表理事 鈴木 堅史からご挨拶と共同研究の経緯について紹介いたしました。
共同研究者のマサチューセッツ工科大学のスザンヌ・フリン教授からのご挨拶と研究成果への喜びのお言葉を頂きました。
東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授より、「多言語話者になるための脳科学的条件」に関する研究論文についてご説明をしていただきました。後半には参加された方からの質疑応答にもお答え頂きました。
記者会見の全映像
Hello and Good Morning, Everyone. I am very pleased and proud to be here today as a part of Lex-Hippo and as part of the Joint Research Project. I am delighted with the results we will report today. We carefully designed an experimental study that would allow us to empirically to evaluate whether or not there is an advantage to learning more than one language.
皆さん、こんにちは。ヒッポファミリークラブの仲間として、また、共同研究に携わった一人として、本日皆さんとご一緒できることを、大変嬉しく、誇りに思います。そして、本日発表する研究成果を嬉しく思います。私たちは、複数の言語を習得することに優位な点があるかどうかを明らかにするための実験を、注意深く計画しました。
The Cumulative Enhancement Model (CEM) was proposed by me and my colleagues based on behavioral observation and data.
「言語獲得の累積増進モデル」は、私と私の同僚が、これまでの行動実験やデータに基づいて提唱していたものです。
When we looked at people learning third languages (L3), for example, English as a third language, --or it could be any language, Russian, Chinese, Korean, etc.—it appeared that individuals had an easier time in learning, in some sense, than people learning English or Russian, Chinese, Korean etc. as a second language (L2).
これは、例えば英語、あるいはロシア語、中国語、韓国語、その他の言語を、第2言語として習得する人よりも、第3言語として習得する人の方が、ある程度簡単に習得できる、ということです。
We were not exactly sure why this was the case. So, we began a long series of empirical studies varying the different languages we investigated in hopes of understanding why this was the case. Of course, everyone in Lex-Hippo already knew that this was the case. “The more languages you learn, the easier it gets.”
私たちは、なぜこのような結果になるのか、正確には実証していませんでした。そのため、このモデルが正しいことを明らかにする、という希望をもって、様々な言語について、長期にわたる実験を行ってきました。もちろん、ヒッポファミリークラブの皆さんは、「多くの言語を知れば知るほど、習得するのが簡単になる」ことが正しいことを、既に知っていました。
The results of our studies always indicated that learning an L3, all else being equal, was easier than learning that language or any other language as an L2. And, in this case learning a fourth language (L4), was easier than learning a particular language as an L3. And, now we have the neural or brain evidence to show us why this is the case. Thus, the CEM which was developed initially through experimental observation alone is now confirmed by the neural/brain evidence. This is exactly what we had hoped for. This discovery marks a “new age” for Lex-Hippo in that we now have hard and fast neural evidence for the CEM.
私たちの実験の結果は、第2言語よりも第3言語の方が、より簡単に習得できることを常に示しました。そして、第3言語よりも第4言語の方が、更に簡単に習得できることを示しました。これにより、従来、行動実験のみから提唱していた「言語獲得の累積増進モデル」が、脳科学的に実証されたのです。これこそ、まさに私たちが求めてきた成果です。この発見は、「言語獲得の累積増進モデル」にゆるぎない脳科学による裏付けを与え、ヒッポファミリークラブにとって「新しい時代」の幕開けとなります。
Results did not have to turn out as they did. Our hypotheses did not necessarily have to have been neurally confirmed. We were prepared for a disconfirmation as we should be in any good science. However, the results confirmed what Lex-Hippo members knew all along as I said earlier—the more languages you know the easier it gets and that there is real advantage to knowing and speaking more than one language. The results now provide us with demonstrated neural evidence for this advantage. We now understand why all of this is true.
このような実験結果が出るかどうかは、最初から決まっていた訳ではありませんでした。私たちの仮説は、必ずしも脳科学的に確かめられていた訳ではありませんでした。仮説が正しいとは確証できない、という結果に終わることも覚悟していました。しかし、結果は、先ほども申し上げた通り、ヒッポファミリークラブの皆さんが初めから知っていた通り、多くの言語を知れば知るほど習得するのが簡単になり、複数の言語を習得し話すことに優位な点がある、ということです。このことに、脳科学的な裏付けが与えられました。私たちは、これらのことがなぜ正しいのか、初めて理解することになりました。
Before proceeding further, I would like to say a few words about being a member of the joint research project team that consisted of Kuni, Keita, Elizabeth and myself. In the true Lex-Hippo way, everyone worked together for a long time to get everything as close to perfection as possible. “Much blood, sweat, and tears”, as they say in English, went into the development, running of the experiment, analyses of the data and the final rewrites of the results for publication. It was an arduous process but one that guaranteed the best possible results for confirmation of our initial hypothesis about the CEM.
今回の共同研究には、酒井邦嘉教授(クニ)、梅島奎立さん(ケイタ)、エリザベス、そして私でチームを組んで取り組みました。なるべく完璧に近づけるよう、まさにヒッポファミリークラブのやり方で、皆が長い時間を共有しました。英語では「血と汗と涙」という表現がありますが、まさにたくさんの血と汗と涙を流しながら、実験を進め、データを解析し、論文の発表に向けて何度も推敲を重ねました。根気のいる作業でしたが、私たちの仮説「言語獲得の累積増進モデル」が正しいことを示す、考えられる最高の結果をもたらしました。
We now know from these neural data why learning multiple languages is possible and why there is an advantage to being multilingual. Results prove that the Lex-Hippo is the best way to learn languages. The evidence is there and so convincing. We couldn’t be happier with it all.
なぜ複数の言語を習得することが可能なのか、そして、なぜマルティリンガルであることが有利なのか、これらの脳科学的データから明らかになりました。この結果は、ヒッポファミリークラブのやり方が、言語獲得の最善の方法であることを示しています。今回の実験結果は、そのことを圧倒的な説得力で示しています。これ以上嬉しいことはありません。
Results also confirm the very basic fact that we all know about Lex-Hippo. It is a unique and special program in all the world. There is simply nothing else like it worldwide. It is extraordinary, as I always say, and all its members are as well. I am so proud of being a part not only of this project but of Lex-Hippo as a program with all its exceptional members.
また、今回の結果は、ヒッポファミリークラブについて、非常に基本的な事柄を証明しました。それは、ヒッポファミリークラブの多言語活動は、この世界において、唯一無二の、特別な活動だ、ということです。私が常に申し上げているように、この活動も、メンバーの皆さんも、extraordinary「並外れて素晴らしい」のです。今回の共同研究に関われたこと、そして、ヒッポファミリークラブの素晴らしい皆さんの仲間になれたことを大変誇りに思います。
With the results of this project, we have made a new discovery not only for Lex-Hippo but also for the world of science. It is truly a profoundly deep set of results. There is nothing in science quite like it yet. The results set a new bar for future research.
今回の研究成果は、ヒッポファミリークラブにとってだけではなく、科学の世界にとっても新しい発見です。このことは、非常に深い意味を持ちます。これまでになかった、まったく新しい発見であり、今後の研究にとっての新しい基準を設定したことになります。
Again, I am so proud of it all and I thank you for giving me this opportunity to scientifically prove something we all believed to be true. Now we know why neurally.
改めて、私たちが皆信じてきたことを科学的に実証する機会をもてたことを、誇りに思い、感謝します。
Arrigatogozaimasu
Muchas Gracias
Thank you
LEX / Hippo未来ファンド(基金)協力のお願い
2016年に東京大学、米・マサチューセッツ工科大学(MIT)、LEX / Hippoの共同研究プロジェクトのスタートを機に「共同研究基金」が開設されました。その後、2022年から共同研究のみならず、より広範な研究活動、そしてLEX / Hippo全体のプロジェクトも含み込んだ新しい『LEX / Hippo未来ファンド(基金)』と改称して、引き続き皆さまからのご寄付を受け付けております。
研究活動全般、青少年の育成に関わる多国間交流の推進、新たなプログラム開発などに役立てていきたいと思います。この主旨にご賛同いただける、個人、団体、法人の皆さまには、下記の要領でぜひご寄付をいただけますようお願い申し上げます。
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